• 検索結果がありません。

酸化的DNA損傷により生じる遺伝子の変異を抑制する新たなメカニズムを発見 研究活動 | 研究/産学官連携

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "酸化的DNA損傷により生じる遺伝子の変異を抑制する新たなメカニズムを発見 研究活動 | 研究/産学官連携"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

【ポイント】

・酸化的DNA損傷で引き起こされる遺伝子突然変異を抑制する新たなメカニズムを発見

【研究の背景と内容】

遺伝情報の担い手である DNA は、紫外線や電離放射線、活性酸素や化学物質など によって損傷を受けます。DNA上の損傷は細胞内のDNA代謝反応を阻害し、突然変異 を引き起こす原因となり、細胞の癌化や老化につながる可能性があります。そのため、細

酸化的 DNA 損傷により生じる遺伝子の変異を抑制する

新たなメカニズムを発見

名古屋大学環境医学研究所(所長:澤田 誠)ゲノム動態制御分野の柏葉 脩 一郎(かしわば しゅういちろう)博士研究員、金尾 梨絵(かなお りえ)助 教、増田 雄司(ますだ ゆうじ)准教授、松尾 理加(まつお りか)特任助教、 益谷 央豪(ますたに ちかひで)教授らの研究グループは、学習院大学との共 同研究で、酸化的DNA損傷で引き起こされる突然変異の抑制に脱ユビキチン化 酵素USP7が関わることを新たに発見しました。

遺伝情報の担い手である DNA 上に生じる損傷は、突然変異を引き起こすな ど、ゲノム不安定性の原因となり、細胞の癌化や老化につながる可能性がある ため、細胞内にはDNA損傷に対応する様々な仕組みがあります。2015年のノー ベル化学賞はDNA修復機構の研究に授与されました。また、DNA修復機構に加 えて、さらに特殊なDNAポリメラーゼを用いて、ゲノム上にDNA損傷を残した まま乗り越えてDNA複製を行うメカニズムの重要性も明らかになってきていま す。ただし、この損傷乗り越え複製という仕組みは正確性が低く突然変異を誘 発しやすいため、厳密に制御される必要があると考えられ、その活性化には、 細胞増殖核抗原(PCNA)のモノユビキチン化が重要な役割を果たすことが知ら れています。

本研究では、PCNAのモノユビキチン化を制御する因子として、新たに脱ユビ キチン化酵素USP7 を同定し、これが、酸化ストレスで生じる DNA 損傷に応答 するPCNA のモノユビキチン化を制御して、酸化的DNA損傷で誘発される突然 変異を抑制していることを発見しました。USP7は、損傷乗り越え複製の過剰な 活性化を抑制して、酸化的 DNA 損傷に起因する突然変異を抑制することによ り、細胞の癌化や老化を抑制していると考えられます。

この研究成果は、12月3日付の米国科学誌「Cell Reports」オンライン版に 掲載されました。

(2)

胞は DNA 損傷に対応する様々なメカニズムを備えています。DNA 損傷応答メカニズム のうち、損傷を取り除くメカニズムを DNA修復と呼び、DNA 損傷があってもDNA 複製を 継続させるメカニズムを DNA 損傷トレランスと呼んでいます。DNA 損傷トレランスには突 然変異を起こしやすいメカニズムが存在するため、細胞内で厳密に制御されていると考 えられます。DNA 損傷トレランスの制御には細胞増殖核抗原(PCNA)の翻訳後修飾、特 にモノユビキチン化が重要な役割を果たすと考えられていますが、詳細なメカニズムはわ かっていません。

我々は、ヒト細胞内での DNA 損傷トレランスの制御メカニズムを明らかにするため、 PCNA のモノユビキチン化をコントロールする因子の探索を行い、脱ユビキチン化酵素で あるUSP7が試験管内でモノユビキチン化PCNAを脱ユビキチン化することを明らかにし ました。これまでに、PCNAのモノユビキチン化はUSP1 によってコントロールされることが 報告されていたので、USP1 と USP7 の細胞内での働きを比較解析しました。その結果、 USP1は主にS期(DNA合成期)にDNA損傷の有無に関わらずモノユビキチン化PCNA を負に制御していること、また、USP7 は細胞周期非依存的にモノユビキチン化 PCNA を 負に制御しており、特に過酸化水素で誘導されるモノユビキチン化PCNA量のコントロー ルに関与していることが明らかになりました。さらに、USP1 は紫外線で誘発される突然変 異発生頻度を、USP7 は過酸化水素で誘発される突然変異発生頻度を下げる働きをして いることを明らかにしました。

図1 USP1、USP7によるPCNAの脱ユビキチン化と突然変異抑制

突 然 変 異

酸化的 DNA 損傷修復

紫外線損傷乗り越え複製

PCNA PCNA

Ub

RAD6/RAD18

USP7

USP1

& DNA 損 傷 ト レ ラ ン ス

脱ユビキチン化

脱ユビキチン化

ユビキチン化

(3)

【成果の意義】

DNA 損傷に適切に対応できないと突然変異上昇の原因となり、細胞が癌化する可能 性が高くなると考えられます。また、酸化的DNA 損傷は細胞内の様々な代謝活動から生 じる活性酸素によってもたらされることもあり、内因性の DNA 損傷として知られています。 DNA 損傷に応答するメカニズムの分子機構の解明は、突然変異蓄積など癌化のプロセ スを理解するうえで、非常に重要であると考えられます。今回の発見は、酸化的 DNA 損 傷に対して USP7 が突然変異を抑制する働きをしていることを明らかにしました。これは、 細胞が内在性の DNA 損傷に対して突然変異の蓄積と、細胞の癌化を抑制するメカニズ ムであることが示唆されます。

今後の研究では、内在性の DNA 損傷に対する細胞内の応答の理解がさらに進むこと が期待されます。

【用語説明】

・DNA損傷:

紫外線や電離放射線、化学物質、活性酸素など様々な原因で生じる DNA の化学変 化。多くの場合DNAの構造変化を伴い、DNA複製や転写などDNA代謝反応の妨げ となる。

・突然変異:

ゲノム DNA に生じる塩基配列の変化。塩基置換や一部配列の欠失、挿入などが知ら れており、癌遺伝子、癌抑制遺伝子に突然変異が生じることが細胞の癌化を引き起こ すと考えられている。

・ユビキチン化:

タンパク質翻訳後修飾のひとつで、タンパク質分解や、細胞内の様々な反応のシグナ ルになると考えられている。ユビキチン化、脱ユビキチン化両方の酵素が知られており、 多くの場合可逆的な反応である。

【論文名、著者名、掲載雑誌】

論文名: USP7 Is a Suppressor of PCNA Ubiquitination and Oxidative Stress-Induced Mutagenesis in Human Cells

著者名: *Shu-ichiro Kashiwaba, *Rie Kanao, *Yuji Masuda, Rika Kusumoto-Matsuo, Fumio Hanaoka, and Chikahide Masutani(責任著者) *co-first author

(柏葉脩一郎、金尾梨絵、増田雄司、松尾(楠本)理加、花岡文雄、益谷央 豪)

掲載雑誌: Cell Reports

DOI: 10.1016/j.celrep.2015.11.014

参照

関連したドキュメント

今日のお話の本題, 「マウスの遺伝子を操作する」です。まず,外から遺伝子を入れると

シークエンシング技術の飛躍的な進歩により、全ゲノムシークエンスを決定す る研究が盛んに行われるようになったが、その研究から

第四章では、APNP による OATP2B1 発現抑制における、高分子の関与を示す事を目 的とした。APNP による OATP2B1 発現抑制は OATP2B1 遺伝子の 3’UTR

  「教育とは,発達しつつある個人のなかに  主観的な文化を展開させようとする文化活動

の点を 明 らか にす るに は処 理 後の 細菌 内DNA合... に存 在す る

水素爆発による原子炉建屋等の損傷を防止するための設備 2.1 概要 2.2 水素濃度制御設備(静的触媒式水素再結合器)について 2.2.1

注)○のあるものを使用すること。

・子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制を整備する